【書評】一流の頭脳

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私は、ストレスが溜まったり、モヤモヤ、イライラする時ランニングをします。すると頭も身体もすっきりします。私はこれまで何の根拠もなく運動をしていたのですが、本書を読むことで身体を動かすメリット、脳を効率良く働かせるメカニズムがわかり、より運動を習慣化したいと思うようになりました。

なんとなく集中できない、ストレスに気分や体調を左右されやすい人、またぼんやりとした不調に悩んでいる人におすすめしたい一冊です。あなたの不調に必要なのは、運動かもしれません。

 

 

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脳は身体の一部である

誰もが知っていることだが、情報化した現代社会に生きていると忘れがちなことでもある。身体の一部であるということはすなわち、トレーニングによって鍛えることも可能だということだ。しかし著者によると、パズルなどの「脳トレ」にはあまり効果がないそうだ。それよりもずっと効果的なのが、意外にも運動なのだという。

原始時代、人間は狩りをして生活していた。食料を得て、生き延びるために、人間は現代とは比べものにならないほど活発に動きまわっていた。だから人間の身体は動くのに適したつくりになっており、脳もまた例外ではないそうだ。

そして脳を効率よく働かせるには、運動が最も効果的なのだという。本書では運動によってストレスにうち勝ったり、記憶力や集中力を持続させたり、すぐれたアイデアをひらめいたりするメカニズムが紹介されている。

 

要点

  1.  ストレスがかかると、コルチゾールというストレスホルモンが分泌される。しかし運動を習慣づけると、やがてコルチゾールの分泌量がわずかしか上がらなくなり、ストレスに対する抵抗力を高めることができる。
  2. 太古の昔から、身体を動かすことは生存に必要な活動であった。だから運動すると「報酬系」と呼ばれるシステムが働き、ドーパミンが放出されてポジティブな気持ちになる仕組みになっている。
  3. BDNFは、脳の健康に欠かせない物質だ。BDNFを増やすには、30~40分の有酸素運動を週に3回行うことが有効である。

 

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ストレスと脳の関係

人間は絶えずストレスにさらされている。ストレスは脳の働きを阻害し、不眠などの様々な症状を招く。脳が何らかの脅威を感じると、脳の中の視床下部がホルモンを放出し、下垂体という部位を刺激する。その刺激によって、副腎からコルチゾールというストレスホルモンが放出される。

たとえばあなたが大勢の同僚の前でプレゼンテーションをしなければならないとする。あなたの動悸は速くなり、口の中は乾き、手はかすかに震えるだろう。こうした反応は、コルチゾールによって引き起こされている。

プレゼンテーションが終わり、ストレスを受ける状況から解放されると、コルチゾールの分泌量は速やかに減っていく。だがストレスを受ける状況が何カ月、何年と続くと、慢性的にコルチゾールが分泌され、脳の記憶中枢である海馬が委縮してしまう。ストレスは脳に損傷を与えさえするのだ。

 

運動を習慣づけるメリット

ストレスにうまく対処するためには、コルチゾールが脳に与える影響を減らさなければならない。それには運動が有効である。運動している間は身体に負荷がかかるため、それが一種のストレスとなり、コルチゾールの分泌量が増える。運動が終われば、分泌量は運動する前のレベルまで下がる。運動を習慣づけると、運動している間のコルチゾール分泌量が増えにくくなる一方で、運動を終えたときには減りやすくなる。

さらに、定期的に運動を続けると、運動以外のことが原因のストレスを感じたときにも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていく。つまり運動によって、ストレスに対する抵抗力を高めることができる。

 

運動を習慣化してストレスに強くなる

ストレスに強くなるためには、筋力トレーニングよりも、ランニングやスイミングなどの有酸素運動が効果的だ。少なくとも20分、体力に余裕があれば30~45分続けるとなおよい。これを習慣化しよう。長く続けることで効果が出てくる。週に2、3回は心拍数が大幅に増えるような運動をしよう。すると脳は、動悸が激しくなってもそれが恐怖からくるものではなく、プラスの変化をもたらすものであると学習していく。

ハードな運動をするのが難しいなら、ただ散歩するだけでもよい。ハードな運動をしたときほどではないが、ある程度の効果は期待できる。

 

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集中力を上げる方法

あなたは、同僚が雑談に花を咲かせていても、携帯からメールの着信音が聞こえていても、目の前の仕事に集中することができるだろう。このように、脳が要らない情報を遮断することを選択的注意という。選択的注意は、目の前のことに意識を集中するために欠かせない能力である。

健康だからといって必ずしも選択的注意力が高いとはいいきれない。ある実験では、被験者を2つのグループに分けた。1つのグループは、週に3回、45分、トレッドミルでウォーキングを行った。もう1つは、身体にあまり負荷のかからないストレッチやヨガを行うグループだ。後者は、心拍数が上がらない程度に身体を動かすようにした。

半年後、選択的注意力を測るテストを実施すると、2つのグループの違いは歴然たるものだった。ウォーキングのグループはテスト課題をうまくこなし、選択的注意力が改善していたのだ。選択的注意力は、たった半年の簡単な運動で改善する。

 

ドーパミンが集中力を決める

脳の中には、おいしいものを食べたりほめられたりしたときに快楽を与える、報酬系と呼ばれるシステムがある。社会と交流したり、運動や性行為を行ったりすると、脳の中からドーパミンが放出される。ドーパミンが大量に放出されるとポジティプな気持ちになり、その行動を繰り返したくなったりする。

ではなぜ脳は、あなたに運動や性行為をさせたがるのか。それは、運動や性行為が、生物としての生存確率を上げる行動だからだ。獲物や住み処を探すためには走り回る必要があったため、運動にもこの報酬系が働くようになっている。

 

ドーパミンの分泌量を増やす

運動は、集中力の改善にも役立つ。運動した直後はドーパミンの分泌量が増える。運動を終えた数分後に分泌量が上がり、その状態が数時間にわたって維持される。そのため運動後は頭の中がすっきりして集中力が高まり、心が穏やかになる。

ドーパミンの分泌量は、身体に与える負荷が大きいほど増えることもわかっている。したがって、集中力をアップさせるためには、ウォーキングよりもランニングのほうがおすすめだ。ドーパミンは運動の時間が長くなるにつれて増えていくため、無理のない範囲で運動の時間を長くするとより効果が表れやすい。

日中の集中力を高めたいなら、運動は朝に行うのがよい。心拍数の上がる運動を最低20分、できれば30分続けよう。集中力が改善されるまでは時間がかかるため、すぐに効果が出なくてもあきらめず、長期的に続けることが重要だ。

 

 

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脳のアンチエイジング効果

運動はうつ病にも効果があることがわかっている。うつ病とまではいかないが気持ちがふさぐ人にも目覚ましい効果が発揮される。

脳内にはセロトニンノルアドレナリンドーパミンの3つの神経伝達物質があり、細胞から細胞へと信号を伝える役割を担っている。これらは人間の感情を左右するほか、人格形成、集中力や意欲、意思決定などにも欠かせない。うつ病はこの3つが欠乏することと密接に関わっていると考えられ、多くの抗うつ剤にはこれらを増やす効果がある。

しかし、うつ病の症状を取り除いてくれるものは別にある。BDNF(脳由来神経栄養因子)だ。BDNFは、脳細胞がほかの物質によって傷ついたり死んだりしないように保護してくれるタンパク質だ。BDNFは、新しく生まれた細胞を助け、細胞の生存や成長を促す役割も果たしている。加えて学習や記憶力を高める働きや、脳細胞の老化を遅らせる役割もある。BDNFは脳の健康に欠かせない物質なのだ。

 

有酸素運動でBDNFを増やそう

BDNFは、有酸素運動によって増やすことができる。疲労感が抜けない、気がふさいで仕方がないというときは、ランニングやサイクリングなどの心拍数が増える運動をしよう。30~40分の有酸素運動を週に3回行う。速く走る必要はないが、息が上がる程度の負荷をかけよう。

これを3週間以上続ける。初回の運動だけでも気分が改善するはずだ。だが運動の直後だけでなく、一日中快調に過ごすためには、定期的な運動を長期間続けることが重要だ。

 

運動で想像力を上げる

村上春樹は一つの作品を執筆している間、ランニングと水泳を欠かさないという。アインシュタイン相対性理論を思いついたのは自転車をこいでいるときだし、スティーブ・ジョブスは歩きながらミーティングを行っていた。運動とひらめきには密接な関係がある。運動したあとにいいアイデアをひらめいたことがある人は多いのではないだろうか。それは単に、身体を動かしてリフレッシュしたからではない。

創造性は「発散的思考」と「収束的思考」の2つに分類できる。発散的思考は、ブレインストーミングのように、多角的で相関性のある答えをできるだけ多く思い付くことだ。一方、収束的思考は、唯一の正解にすばやくたどり着くための思考である。3つの単語の共通点を見つけるなどといったことが該当する。

実験の結果、運動は発散的思考能力の向上に効果があることがわかっている。運動することによって、たくさんのアイデアを思い付けるということだ。出てくるアイデアの数を増やせば、必然的にいいアイデアも増える。したがって、運動はひらめきに役立つといえる。

 

 

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脳は有酸素運動で変化する

運動は脳にあらゆる好影響をもたらす。たった5分のウォーキングであっても、やらないよりはやったほうが絶対にいい。より高い効果を出すためには、30分以上のウォーキングがおすすめだ。

脳を最高のコンディションに保つには、45分以上のランニングを週に3回行う。ポイントは心拍数を上げることだ。筋力トレーニングも脳にいい影響をおよぼすが、有酸素運動のほうがより効果的である。大切なのはとにかく続けること。脳が再構築されて構造が変化するまでには時間がかかる。週に数回の運動を半年以上続ければ、変化がはっきりと感じられるだろう。

 

まとめ

本書を一言であらわすと「脳のために運動をすすめる本」だ。だが、これでもかというくらい科学的根拠に基づいているという点で、似たような趣旨のものとは一線を画している。本書では一つひとつの内容について、必ず実験のデータや根拠となる説が紹介されており、説得力がある。本書では他にも、記憶力や学力の高め方、脳の老化を防ぐ方法などが紹介されている。もちろんどれも科学的な根拠とともに、具体的な運動の方法まで詳細に述べられている。本気で脳を変えたい人におすすめの本です。