【書評】長友佑都のファットアダプト食事法 カラダを劇的に変える、28日間プログラム

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2018FIFAワールドカップのロシア大会にて、長友佑都選手が次のワールドカップへの意欲を表明したことが話題になった。長友選手は、4年後には36歳。アスリートとしては、決して若い年齢ではないかもしれない。それなのに、このようなポジティブな発言ができたのはなぜか。「それは僕自身が肉体的にも精神的にも絶好調であり、ロシアでワールドカップに改めて魅了されたからだ」本書の冒頭で、長友選手はそう振り返る。

彼の絶好調の秘密は、食事にある。長友選手は2015年頃、スランプに苦しんでいた。思ったようなパフォーマンスができないだけでなく、怪我が多く、その回復に時間がかかってしまっていたという。だがヨガや糖質制限など、試行錯誤の末に「ファットアダプト食事法」にたどり着くと、スランプを乗り越え、心身ともに史上最高の状態をキープしているというのだ。長友選手を変えたこの食事法こそ、本書のテーマである。

アスリートの食事法だから、一般人には参考にならないのでは?そう考える方もいるかもしれない。だが本書を読んでみると、この食事法は、気軽に試せるだけでなく、一般人にもうれしいメリットが満載であることがわかる。「一流アスリートと同じ食事法を実践している」と思えば、体調だけでなく、気分も上向きになること間違いなしだ。

 

要点

  1.  長友選手は、アスリートとして決して若い年齢ではないにもかかわらず、完璧なコンディションを維持している。それは、ファットアダプト食事法を実践しているからだ。
  2. ファットアダプト食事法には、(1)筋肉の質が変わり、故障が減る、(2)精神的に落ち着ける、(3)ダイエット効果があるなどといったメリットが期待できる。
  3. ファットアダプト食事法を実践するにあたっては、(1)糖質の摂取量をコントロールする、(2)油脂(アブラ)に対する理解力を高め、良質な油脂を選ぶ、(3)たんぱく質を十二分に確保するという基本ルールを守る必要がある。

  

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ファットアダプトがもたらした絶好調

2018FIFAワールドカップのロシア大会にて、著者が所属する日本代表は、初めてのベスト8入りをかけてベルギーと対戦。逆転負けを喫した。試合の後、著者の口から出たのは次のような言葉だった。「また4年後のワールドカップを目指します」大きなショックを受けていながら、このようなポジティブな発言ができたのはなぜか。それは、肉体的にも精神的にも絶好調であり、またこの舞台に戻りたいと素直に思えたからだという。32歳という、アスリートとして決して若い年齢ではないにもかかわらず、完璧なコンディションを維持していたのだ。

その秘密は「ファットアダプト食事法」にある。これは、脂質(ファット)をエネルギー源として上手に使えるファット・アダプテーション(脂質適応状態)になるための食事法だ。糖質の摂取をコントロールして血糖値の乱高下を抑えて、良質のたんぱく質と脂質を積極的に摂る。著者は2022年のワールドカップを目指し、トレーニングと並行してファットアダプトに取り組んでいるという。

 

スランプと試行錯誤

著者が食事の重要性に改めて気づいたのは、インテルでプレーしていた2015年頃のことだった。その頃、著者のパフォーマンスは最悪だった。カラダが思うように動かないだけでなく、怪我が多く、その回復に時間がかかっていた。人一倍努力をしている自信があったので、トレーニングが足りないとは思えなかった。

そこで、食事に目を向けることにした。そのきっかけになったのは、世界一のテニスプレーヤーであるノバク・ジョコビッチ選手の本『ジョコビッチの生まれ変わる食事』だ。この本には驚かされた。ジョコビッチ選手の置かれた境遇が、あまりにも自分と似ていたからだ。彼は思うような結果が出せず、あらゆる方法を試していた。その結果、自分に合った食事法を見つけたのだ。この本にヒントをもらった著者は、さまざまな食事法を試すことにした。

まず、糖質制限を試した。ご飯もパスタもお預けにし、朝ご飯は茹で卵2個とスムージーのみとした。ところが、思うような結果は出なかった。練習を始めて1時間もすると頭がボーッとしてくる。試合をしていても、頭もカラダも動かない。糖質制限は、著者には合っていなかった。

 

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ファットアダプトがもたらす効果

本書では、ファットアダプトによるファット・アダプテーションで期待できる効果が紹介される。まず、筋肉の質の変化だ。著者のカラダを10年以上見ているトレーナーたちが、口を揃えて「筋肉の質が変わったね」と言ってきたのだという。どうしてファットアダプトによって筋肉の質が変わるのか。それは、良質なアブラを摂るようになったことで、細胞膜の脂質も良質なものに置き換えられたからだ。その結果、細胞膜の機能が高まり、筋肉の弾力や柔軟性が向上した。ファットアダプトを始めてからというもの、著者は一度も筋肉系の故障を経験していない。筋肉の質が変わったからだろう。

 

精神的に落ち着ける

ファットアダプトでは、血糖値を乱高下させないような糖質の摂り方をする。血糖値が乱高下すると、精神的に落ち着かなくなるからだ。ファットアダプトを行うと、脳に安定的にエネルギーが供給されるようになる。著者自身、頭がぼんやりすることがなくなったし、集中力もつねに高いレベルで維持できるようになったという。

以前は、ランチ後の昼寝が習慣だった。食事で血糖値が上がり、その後に下がりすぎていたからだろう。今は昼寝が必要なくなり、朝から晩までつねに頭が冴えている。だからファットアダプトは、仕事に集中したいビジネスパーソンや、試験や受験を控えた学生たちにもお勧めだ。

  

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ダイエット効果がある

ファットアダプトはダイエットにも有効だとされている。理由を2つ挙げよう。

1つ目は、過食が防げるからだ。ファットアダプトでは、糖質を適度にコントロールした分だけ、たんぱく質と脂質の摂取が増える。たんぱく質や脂質をしっかり摂ると、消化管から「もう満腹になったから、食べるのを止めていいぞ」というシグナルを出すホルモンが分泌される。だから、たんぱく質や脂質が多く摂れるファットアダプトに則した食事をしていると、自然に満腹感が訪れて過食に走ることがない。

2つ目は、血糖値の乱高下が抑えられるからだ。白いご飯やうどんや大福餅のように、糖質が多すぎてたんぱく質や脂質が少ないものを過食すると、血糖値は急上昇した後、分泌されたインスリンの作用で急降下する。血糖値が下がりすぎると、お腹はまだ満腹なのに、脳はエネルギーが足りないと判断して空腹感を促してしまう。その偽りの空腹感にダマされてしまうとまた何か食べたくなり、オーバーカロリーにつながるというわけだ。

一方、ファットアダプトでたんぱく質と脂質を摂ると食欲が正常化するから、お腹いっぱい食べても、活動で使ったエネルギーに見合った分にしかならない。

 

ファットアダプトの基本ルール

ファットアダプトのとくに重要な基本ルールを紹介する。まず、糖質の摂取量のコントロールだ。ファット・アダプテーションを起こすには、脂質を上手に使うために糖質を摂り過ぎないことがカギとなる。糖質と脂質はつねに一緒に使われる。その利用率は活動強度で変わる。通勤やデスクワーク、家事などといった日常生活では、活動強度が低いため、脂質がメインに使われている。日常生活で脂質を効率的に使えないと、余った脂質が体脂肪として蓄積されて肥満を招くため、脂質を効率的に使うことが一つのポイントとなる。

ファットアダプトを実践するためには、どんな食品に糖質が多く、それぞれにどのくらいの糖質が入っているかを把握しておくこともまた重要だ。たとえば、肉や魚や卵などのたんぱく源は糖質がゼロに近いため、血糖値を大きく上げない。野菜も糖質は少ないから血糖値を上げにくい。ご飯、パン、麺類などの主食も糖質が多い。ラーメン+丼ご飯といったダブル糖質のメニューは避けよう。

 

油脂(アブラ)に対する理解力を高め良質な油脂を選ぶ

次に気にするべきは脂質の摂り方だ。食べる脂質には、牛肉の霜降りや豚肉の脂身のような固形の脂と、植物油や青魚のような液体の油がある。これをまとめて「油脂」というが、本書ではこれを「アブラ」とする。

著者がとくに意識して摂っているのは、オメガ9脂肪酸オレイン酸)が豊富なオリーブオイルやアボカドとオメガ3脂肪酸が豊富な青魚、エゴマ油、アマニ油だ。オリーブオイルは、エキストラバージンタイプを選ぶ。

ファットアダプトでは、アブラを積極的に摂取することが勧められる。だが、どんなアブラでもいいわけではない。酸化した油と人工的なアブラは避けるべきである。酸化した油とは、揚げて時間が経った唐揚げやフライドポテトといった揚げ物だ。これらは、細胞や遺伝子を傷つける。人工的なアブラの代表格は、トランス脂肪酸だ。パンやケーキ、ドーナツなどに使われているマーガリン、ファットスプレッドショートニングなどがある。トランス脂肪酸の摂りすぎは、心臓病などの生活習慣病を招く。

 

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たんぱく質を十二分に確保する

ファットアダプトは、たんぱく質を十二分に確保することが重要だ。量だけではなく質にも目を向けたい。筋肉などのたんぱく質は、体内で合成されない必須アミノ酸が1種類でも欠けると満足に合成されないからだ。たんぱく質は、米や小麦など、幅広い食品に含まれている。しかし、食品に含まれるたんぱく質アミノ酸の組成には差があり、必須アミノ酸が足りないものもある。たとえば米と小麦は、必須アミノ酸のうち、リジンというアミノ酸が少ない。他の必須アミノ酸がふんだんにあったとしても、リジンが少ないと、たんぱく質は効率的に合成されないのだ。たんぱく質必須アミノ酸をどのくらい含んでいるかを評価する目安として、アミノ酸スコアがある。次に挙げる、アミノ酸スコアが高い5大たんぱく源をまんべんなく摂るようにしたい。

・肉類:牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉など

・魚介類:青魚、マグロ、カツオ、鮭、貝類、海老、カニなど

・卵:鶏卵

・牛乳・乳製品:牛乳、ヨーグルト、チーズなど

・大豆・大豆食品:ゆで大豆、豆腐、納豆、豆乳、味噌など

 

まとめ

アスリートでなくとも、「今が自分史上最高」と自信を持って言えるような状態を更新するべく、日々努力を怠らないようにしたいものだ。本書を手に取った方にとくにお読みいただきたいのは、第4章の「ファットアダプトの4つのサブルール」と実践編の「シェフが教えるファットアダプトの具体的なやり方」だ。ここでは、長友選手が実際に食べているメニューも掲載されている。