【書評】UCLA医学部教授が教える 科学的に証明された究極の「なし遂げる力」

皆さん、夢や目標はありますか?

私は、挫折の連続でなかなか目標を達成できない場合が多いです。どうしたら目標を達成できるか?何か良い方法はないかといつも試行錯誤するばかりです。ついタイトルに惹かれこの本を手に取って読んでみました。

 

要点

  •  「なし遂げる力」に性格は関係ない。科学的な裏付けのある方法を、自分に合った形で取り入れればよい。
  • 行動を変えるために有効な力は7つある。目標を小さく刻む、コミュニティ、重要性を認識する、簡単にする、ニューロハックス、夢中になる、ルーチン化するだ。「なし遂げる力」は、この7つの力を組み合わせることで飛躍的に高めることができる。
  • 人間の行動には、3つのタイプがある。「心に効く7つの力」の中から、行動のタイプに合ったものを選ぶことが重要だ。

 

何かを「なし遂げる」ことは簡単ではない。仕事で大きな成果を出すというようなこと以外でも、「ダイエットする」「ゲームをやめる」といった身近なことでも難しいのは同じだ。そういったことを「なし遂げる力」を高める方法があるとしたら、誰でもぜひ知りたいと思うだろう。

本書は、UCLAの医学部教授であり、15年に渡って「なし遂げる力」の研究を行ってきた著者が、研究を通じて開発した「人の行動を継続的に変えるための方法」をまとめた一冊だ。といっても、論文のような堅苦しいものではなく、一般向けに書かれたやさしい内容となっている。これらを理解すれば、仕事にもプライベートにも大いに役立つことだろう。様々な事例やケーススタディも紹介されており、自分の生活にも応用しやすいはずだ。

一般的な自己啓発書では「何かをなし遂げたいのなら、自分を変えろ」というメッセージが書かれていることが多いが、本書のメッセージはそれとは真逆である。

 

物事を続けるのに「強い意志」は必要ない

統計によれば、ダイエットを始めた人の4割が1週間以内に失敗し、半数以上がダイエット開始前より体重を増やしてしまう。また、リピート顧客を増やせずに倒産してしまう企業も多い。

一見、ダイエットの挫折と企業の倒産という2つの「失敗」は、原因が異なるように見える。だが実は、問題のカギは共通している。それは、「人が何かを途中でやめてしまう」ことだ。

一般的に、何かをなし遂げたい人には、「性格を変えろ」というアドバイスがなされる。物事を続けるには、強い意志と困難を乗り越えられる情熱が必要だと。だが実際のところ、何かを続けるのに、性格を変える必要はない。科学的な裏付けのある方法を、自分に合った形で取り入れればよいのである。

 

行動を変える7つのフレームワーク

本書のスタンスは、人間の行動の3つのタイプを科学的に理解し、読者の人生によい変化を起こすための具体的な方法を示すというものだ。

人間の行動には、自動行動、衝動行動、一般行動の3つのタイプがある。それらを変えるのは、「心に効く7つの力」だ。私たちが「なし遂げる」ことができないのは、心に効く力がうまく作用していないからであって、意欲や動機付けが足りないからではない。行動を変えるには、意欲や動機付けよりももっと繊細な方法が必要である。

 まず、変えたい行動が3つのうちどれに当てはまるのかを判断し、それに相応しい「心に効く7つの力」を活用する。私たちの心に効く力をうまく扱えば、自分や他人の行動を意のままに操ることができる。その7つの力とは、次のとおりだ。

 

(1)目標を小さく刻む:「ステップ」「目標」「夢」のモデルに基づいて行動する。ステップをできるだけ小さくすることがポイントだ。

 

(2)コミュニティ:望ましい行動を続けている人たちの仲間になれば、周りから支援を受けたり、他者と競争したりすることができる。

 

(3)重要性を認識する:行動を続けるには、それを「本当に」重要なものにする必要がある。

 

(4)簡単にする:人は難しいものよりも簡単な行動をとろうとするものだ。だから物事を「本当に」簡単にしなければならない。

 

(5)ニューロハックス:まずは行動を変えるべきだ。行動を変えて脳を「騙す」ことで、心も変えられる。

 

(6)夢中になる:夢中になるために、行動を魅力的なものにする。

 

(7)ルーチン化する:同じことを最小限の労力でしようとする脳の働きを利用し、行動を何度も繰り返す。

 

著者がまとめた「心に効く7つの力」のうち、「目標を小さく刻む」「簡単にする」「ニューロハックス」の3つを紹介する。

 

目標を小さく刻む

目の前の一歩に集中する

登山をしているとき、頂上につながる切り立った壁を登ることになったとする。そこには、いくつかの梯子が設置され、階段を登れば頂上まで行けるようになっている。そんなとき、頂上に到達することを夢見ているだけでは、梯子は登れない。ここでなされるべきアドバイスは「頂上にたどり着くことは頭から消し、目の前の梯子で次の一歩を進むことだけに集中せよ」である。

だからといって目の前のことだけに集中すればいいというわけではない。大切なのは「正しい一歩」を見つけることだ。夢と目標を抱きながらも、目の前の小さなステップを乗り越えるために全力を尽くす。そして今までの歩みを振り返り、また次の小さなステップを見つけて実行する。一つひとつのステップをクリアするごとに自信がつき、一番上まで登り続けられる可能性が高まっていく。これが「目標を小さく刻む力」である。

夢、目標、ステップの3段階に分ける

「目標を小さく刻むこと」の大切さを頭では理解していても、実際にはステップが大きすぎるケースがほとんどだ。なぜなら、小さなステップを計画するのは楽しくないからだ。誰だって、「今日ジムに行く」よりも「来月に参列する結婚式までに5キロ痩せる」と考えたほうがワクワクするだろう。だが、遠い将来の大きな夢のことばかり考えるのは逆効果である。夢の実現までがあまりにも遠いと、実現する前に諦めてしまうかもしれないからだ。

著者は、目標達成のためのステップを小さくするために、「ステップ」「目標」「夢」の3段階を意識することをすすめている。「夢」は達成に3カ月以上かかる、初挑戦のもの。「目標」は1週間から3カ月程度かかるもの。そして「ステップ」は、1週間未満で達成できるものとする。目標やステップの達成に必要な期間を適切に見積もるのは、意外と難しいものだ。そんなときは、信頼できる人の意見を聞いてみよう。「3カ月以内に達成するのは難しいのでは?」と指摘されたら、それは「目標」ではなく「夢」かもしれない。

 

簡単にする

物事を簡単にする3つの方法

人は簡単なことを楽しいと感じ、続けようとする。ランニングをするか、ワインを飲むか。執筆をするか、友達とおしゃべりするか。人は常にこうした相反する力に引っ張られていて、簡単なことの方に流される生き物だ。

物事を簡単にするための科学的な方法は、次の3つに大別できる。

 

(1)状況をコントロールする:禁煙に最も効果的な方法のひとつは「タバコに関するものを一切自宅に置かないこと」である。人は、簡単にその行動をとれる状況にあると、ついつい流されてしまう。

 

(2)選択肢を減らす:選択肢が多くなればなるほど、行動がとりにくくなる。テクノロジーによって簡単に異性に出会える現在、結婚年齢が上がり続けているのは、選択肢が多くなりすぎているからではないだろうか。

 

(3)ロードマップを作る:段階的な計画を立て、進むべき道筋がはっきり見えていると、行動しやすくなる。明確に指示された仕事は早く完了できるのと同じだ。

 

ニューロハックス

心ではなく行動を変える

一般的には、「心を変えれば行動も変わる」と言われているが、その考え方は間違っている。心をハックすることで、従来よりもはるかに「なし遂げる力」を高めることができるのだ。著者はその科学的に裏付けられた方法を「ニューロハックス」と呼ぶ。

たとえば多くの人は、「行動を続けるには、まずそのことを頭で考えなければならない」と信じている。だがそれは発想が逆だ。つまり、まず小さな行動を起こし、それを頭で認識することによって、行動を続けられるようになる。

このとき、自己認識がカギとなる。人の行動は、自分自身をどうとらえているかによって左右される。ブログを書き終えるか、カクテルを飲むか? あと10分走り続けるか、残りは歩くか? こうした選択を下すときに影響するのが、過去に似たような状況でとってきた行動と、その経験を通して自分自身に抱いているイメージだ。ブログ記事を書き終えることを習慣化している人は、途中でやめて酒を飲むことはない。「ブログ記事を書き終えるまで酒は飲まない」という自己イメージが確立しているので、それに合わせた行動をとるべきだという心理が働くのだ。

同様に、「自分はこれまで失敗してきたので、次もダメだろう」という自己認識を抱いていると、本当に失敗しやすくなる。ニューロハックスでは、心を変えようとするのではなく、行動によって心をリセットし、自己イメージを変えていく。親切な人になりたいなら、困っている人に親切にしてみる。そうすれば「自分は親切な人だ」という自己認識ができる。いわば簡単な心理的トリックである。

 

ニューロハックスの心理的プロセス

ニューロハックスは、他人に対しても使える。相手に過去の行動を振り返らせ、それまでと違った視点を持たせることで、以前はできなかったことができるよう仕向けることができる。

 

ニューロハックスによって経験する心理的プロセスは、次の2つだ。

(1)誰かに強いられることなく自ら選択して何かをしているとき、それを重要な行動だとみなす。

(2)過去の行動を振り返ることで自らのアイデンティティを形成する。

 

たとえば、子どもに朝食を食べさせたいとする。このとき、冷蔵庫を開いて何が食べたいかと聞くと、選択肢が多すぎる。そこで「シリアルと卵どっちが食べたい?」というふうに選択肢を減らしてみよう。2つのうち1つを選んだ子どもは、選んだものをちゃんと食べようとするだろう。「自分の意思で選んだ」という感覚があるからだ。逆に、強制的に何かを選ばされたと感じると、抵抗を覚え、その選択を実行しようとしなくなる。

 

まとめ

本書を手に取ったときの第一印象は「専門家の書いた本だから、なんだか難しそう」だったが、読み進めていくうちにその印象はどんどん変わっていった。一般の人にもなじみのある言葉や表現で構成されており、内容がすとんと落ちてくる。本書では、成し遂げるために、心に効く7つの力をいつ、どう使うかについても解説されています。この本を読めば、多様な問題を解決できるでしょう。