【書評】実験思考 世の中、すべては実験

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書籍の価格そのものを390円(電子版であれば0円)、追加で価値を感じた場合には寄付できる形を”実験”している本です。

 

「実験」するために生まれたサービス

本書の著書、光本勇介氏は、目の前のアイテムが一瞬でキャッシュに変わる、というキャッチコピーの「CASH」というアプリを開発したり、STORES.JPという、簡単にネットショップを立ち上げることができるサービスを行っている。

メルカリがブレイクしたことも大きかった。メルカリの平均販売単価はたったの3000円から4000円。しかも「受け取り通知」や「振込申請」などの過程が必要で、お金を受け取るまでに時間がかかる。この流れを短縮し、すぐにお金を渡すような仕組みはできないか。そう考えて生まれたサービスが「CASH」だった。CASHは、こうした常識を「実験」するために生まれたサービスであるという。

STORES.JPでは、販売した商品の売上を翌日に現金化できるボタンを設置、手数料がかかるにもかかわらず、みんながこぞってこのボタンを押していた「世の中の人はこんなにすぐお金が欲しいんだ」と気づかされた。これからは「お金」をテーマにビジネスをするのが一番おもしろいのではないかという気づきを得られたそうだ。

 

要点

  1.  多くの人が興味を持っていることを「実験」すること。著者にとって、これがサービスを生み出す源泉だ。CASHもこの「実験」の賜物である。
  2. サービスの発想は、「普通の人」であることから生まれる。
  3. むやみに人に相談するのではなく、自分の感覚を大切にしよう。答えは他人の意見ではなく、世の中の反応にしかない。
  4. 「実験思考」を持てば、世の中の見え方が変わり、毎日が楽しくなっていく。

 

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失敗も価値になる

著者にとってはどんなビジネスも「実験」である。著者は実験が大好きで、ずっと実験を続けていきたいくらいだという。

「これをやったらどうなるんだろう?」「たしかにそれ、おもしろそうだよね」と多くの人が思いつつ、実現されていないことはたくさんある。著者にとっての「実験」とは、そうしたことを実際にやってみることであり、それが新しいサービスを生みだす原動力となっている。

実験に成功すればお金持ちになれるかもしれない。だが著者個人としては、実験の成否はさほど重要ではない。それよりもただ「結果」が見たいのだ。失敗も無駄ではなく、ひとつの「検証結果」として「価値」になると考えている。

 

カーシェアリングサービスの失敗

広告代理店で3~4年働いた後、カーシェアリングサービスで起業した。レンタカーではなく、個人の自家用車を借りられるサービスだ。本書執筆時から10年ほど前の話である。これは結果として、ビジネスとしては早すぎた。SNSもろくにない当時にあって、非常識に過ぎたのだ。この経験から、ビジネスを起こす際には「市場選択」と「タイミング」が重要だということを身をもって学んだ。

 

狂ったビジネスの作り方

「実験」するようなサービスの発想は、どうすれば生み出せるのか。まず、社長は暇なほうがいい。なぜなら、考える時間をなるべく多くしたほうがいいからだ。

考える時間というのは、スマホやパソコンとにらめっこしている時間ではない。スマホやパソコンにかじりついていては、細かいことばかり考えるようになり、メジャーなサービスを考え出すことはできない。あえて考えない状況を作り出すことも必要で、そのためには体を動かすことが最も手っ取り早い。たとえば著者は、自宅のランニングマシーンを活用し、1日に1~2時間、週5~6日は走っているという。

普通に生活をして、家で考えるほうが、いいアイデアが出てくるものだ。フリーターや専業主夫みたいに過ごす日もある。「あえて普通に生活する」状態にして、企業経営者が忘れてしまうような、当たり前の感覚を持ち続けることが大切である。

当たり前の感覚という点では、メジャーなサービスや新しいモノについては、いちおう全部知るようにしている。マスの感覚をつかむためだ。逆に最先端すぎたり、新しすぎたりするモノには触れない。とにかく「普通の人」の感覚からかけはなれないように注意している。

 

 

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「インターネットの人」にならない

著者はまた、インターネットが大好きであるにもかかわらず、「インターネットの人」にならないことを意識している。インターネット業界の人は、リテラシーが高く頭もいい。また所得も、平均と比べると高すぎるくらいだ。だから、世の中の0.001%にすぎない物事であっても、「それが世の中だ」とつい思ってしまう。すると、その他の99%以上の人たち向けのサービスが作れなくなってしまうのだ。

たとえば著者が気づいた「少額の資金」というニーズ。ここで言う「少額」とは1万~2万円のことだ。世の中には、いまこの瞬間に1万~2万円がなくて困っている人がたくさんいる。たった1万~2万円であっても、そのお金がなければ、大切な娘をディズニーランドに連れて行けないかもしれない。だが多くの「インターネットの人」たちの反応は、「1万~2万なんて、どうにかなるでしょ?」というものだったという。

 

誰にも相談しない

著者は、誰にも相談しない。相談することで自分の考えがブレてしまうことを恐れているという。CASHを始めるときも、誰にも相談しなかった。モック(試作品)を作ってくれる人にイメージだけを伝えたくらいである。

モックを見せてみると、だいたいみんな「いいね」と言ってくれる。その意見は信じない。逆に「悪いね」も信じない。本当の意見を言っているとは限らないからだ。著者にとって、結果は「世の中の反応」にしかない。自分の構想を世に問い、そこで起こる化学反応を見ることが、いちばんの楽しみだ。

 

市場を慎重に判断する

世の中は可能性だらけで、アイデアは無限に出てくる。しかし、なんでも手を出して時間をとられてしまうことだけは、どうしても避けたい。

なぜなら、人生は有限だからだ。ひとつのサービスを成長させるのにかかる時間は、10年くらい。生きているあいだに立ち上げられるサービスは3つが限度だろう。後は、それをどう成長させていくかを考えていかねばならない。攻めるべき市場か否かを慎重に判断するようにしている。

 

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今後実験したいこと

これからの世の中がどう変わり、どういったサービスを生み出せるのかという観点から、著者自身が「実験」したいことを紹介していく。

ものすごくカジュアルに月1回、がんの検査ができるサービスを開発できないかと考える。ほとんどのがんは、早期発見によって治せるはずだ。ならば1ヶ月に1回検査をすれば、それだけで治せる確率も上がるだろう。そこでがんの検査を、時間をかけずに、超カジュアルに、安く、究極的にはタダで提供する。そこを変えることができたら、可能性はどんどん広がっていくはずだ。多くの人は医療の検査を「高額なのがあたりまえ」「年に1回くらいがあたりまえ」と思い込んでいるが、そんな常識にとらわれる必要はない。

 

カジュアルに車を売買できるサービス

いま、個人間で車を売買するのは、とてもめんどくさい。お金と車のやり取りだけでなくさまざまな手続きが必要だから、売るのは結局、中古車販売会社になる。もし、カジュアルに車を売買できるサービスが提供できたら、個人間での取引がどんどん増えるかもしれない。カギはこの面倒くさい部分にあって、アプリにすごく簡単な入力をしてもらうだけで、個人間の車の売買を成立させられるかどうかだ。

 

毎日が楽しくなっていく「実験思考」

大きな時代の流れは、「人は思考しなくなり、所有しなくなる」方向に向かっている。一方で、普通の人の不便なこと、面倒くさいことから、日常的にどんなモノを欲しているのかを感じ取ると、新しいサービスの形が見えてくる。それが見えたら、そのアイデアや仮説を実行してみて検証する。

こうした「実験思考」を通すと、世の中の課題も180度違って見えてくる。たとえその実験に失敗したとしても、貴重なデータになっていくことは間違いない。突き詰めれば、もはや失敗という概念すらなく、毎日が楽しくなっていくことだろう。

 

まとめ

常識外れのサービスは、決して頭で考えただけで出てくるわけではない。大事なのは、「インターネットの人」ではなく「普通の人」の感覚、普通の生活。では普通の生活の中で、どう考え行動したらよいのか。実験する前の、サービス開発の原点ともいうべきアドバイスが得られます。起業ではなく、実験という感覚でビジネスを考えたい。