書評「未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる」

10年後の自分は、想像つきますか?

どんな仕事をしていたいですか?

老後の生活に心配はないですか?

従来の生き方が通用しないであろう未来において、前向きに「未来の働き方」を考えたいという人は多いのではないでしょうか。

本書は、現在から近い将来にかけて起こっている事象について説明した上で、そうした事象を見据えて既に新しい生き方をしている若者が存在すること、そして著者である「ちきりん」が提案するオリジナル人生の設計方法について述べた一冊だ。

 

要点

  1. IT革命、グローバリゼーション、人生の長期化という3つの革命的変化によって、いま一般的であるとされる日本人の生き方は、近い将来全く通用しなくなる。
  2. 若者のなかでは既に、惜しげもなく大企業を辞める人、自ら進んで海外で働こうとする人、働くことを最小化しようとする人が存在する。彼らのなかでは仕事は生きるための土台ではなく、その一部にすぎない。
  3. 今後は40代を境にして職業生活をふたつに分け、前半と後半で異なる働き方をしてみてはどうか。そうすれば二回目は自由設計の個人旅行のように、「自分で創るオリジナルの働き方」が出来るだろう。

 

人生は二回生きられる

本書の前半部分で語られる未来は先行き不透明で、読んでいて暗い気持ちになるかもしれない。定年が70歳まで引き上げられると、若い人は約50年も働かなくてはいけない。その一方で、インド・中国といった新興国が台頭し、組織よりも個人の能力が問われ、ますます競争が厳しい時代を生きていかなくてはいけなくなる。しかもこれは「そうなる可能性がある」という話ではない。すでに起こりつつある、極めて確実性の高い「予測」なのである。

これまでは大企業に入社し、与えられたレールの上をたどる働き方が最も賢明な選択だった。多少我慢しなくてはならないことがあったとしても、他の生き方はリスクが高すぎたからだ。だが、これからは違う。お金と寿命に対する考え方さえ改めれば、誰でも好きな人生を生きることが出来る。本書でちきりん氏が主張する、「人生は二回、生きられる」時代がやってきたのだ。たかだか20歳そこらで自分の人生が決まってしまうより、40歳で「次はどんな人生を生きようかな」と想いを馳せながら仕事に向き合う方が、よほど健全だし、楽しく生きられるだろう。

真剣に「未来の働き方」を考えていただければと思う。そこにはきっと明るい未来が待っているはずだ。

 

世界を変える3つの革命的変化

2013年時点で30歳未満の人たちは、将来70歳まで働かなくてはならない可能性が高く、半世紀も働かなくてはならない世の中では、既存の価値観など全く通用しない。それではまず、世界で起こっている3つの革命的変化について紹介しよう。

 

大組織から個人へ(IT革命)

革命という言葉が使われる条件は、「パワーをもつ層の交代」が起こることだ。IT革命が「革命」と呼ばれる理由は、ITの進化によって、これまで圧倒的な力をもっていた国や企業などの大きな組織から、今まではそれらに従属するしかなかった個人や、個人が集まっただけのネットワークへ、パワーシフトが引き起こされているからである。ビジネスの世界でも大企業の優位性は急速に弱まり、個人や小企業が大きな組織に対抗することが、以前に比べてはるかに容易になりつつある。

 

先進国から新興国へ(グローバリゼーション)

「グローバリゼーション=世界がつながること」は、私たちの働き方に根本的な影響を与える。例えば、先進国では「同一労働・同一賃金」という言葉を、国内の格差解消を唱えるために使ってきた。ところが、グローバルに見ればこの言葉は、新興国が先進国から雇用を奪うことを正当化する論理と言える。国内の工場を海外移転するメーカーが「ベトナム工場での人件費は日本の10分の1だ。だから日本の工場は閉鎖する」ということが理屈として成り立ってしまうからだ。今後はホワイトカラーの仕事も、先進国から新興国へ移動するだろう。

さらに、先進国から新興国へのパワーシフトは「人数バランスの変化」によっても引き起こされる。人数バランスの変化とは、先進国人口は今後ほとんど増えないうえ、高齢化が進むのに対し、新興国は若い人口が増加する、ということだ。そうすれば、新しい文化や技術が生み出される場所は、これからはシリコンバレーのように積極的に外部から優秀な人を受け入れ続けるエリアか、膨大な人口を抱え、急速に教育レベルの上がる新興国に限定される。そうすれば、こうした場所で生まれた新技術や新文化が、日本など、現在の先進国を含めた世界中に拡がるという、イノベーションや文化の逆流が起こるだろう。

グローバリゼーションの進展と人口構成の大きな変化により、これまで他国の犠牲の上に成り立っていた先進国の人たちの生活と働き方は、大きく変わらざるをえない。

 

ストックからフローへ(人生の長期化)

私たちの働き方に大きな影響を与える3つ目の要素は、人生の長期化、すなわち、寿命が大幅に伸びる可能性だ。戦後間もない1947年、日本人の平均寿命は約50歳だったが、2013年までの66年間で寿命は30年も伸びた。今後さらに医療の進展があれば、寿命が100歳になってもおかしくない。

寿命が100歳となる時代には、働き方も大きく変わるだろう。65歳の一律定年など不可能で、80歳くらいまでは働かないと、個人の生活も社会も立ち行かなくなる。そんな時代では、働く期間は23歳から80歳までの半世紀以上に及び、一生のうちにひとつの職業しか経験しないなどという人は、珍しくなるだろう。

長生きの可能性が高まると、いくら貯金=ストックをもっていても不安は尽きないが、稼ぐ力=フローを得る力がある人は、ストック型の人より安楽に構えていることができる。いわば、「過去に貯めた資産をもつ人から、稼げる人へのパワーシフト」が起こるのだ。

 

新しい働き方を模索する若者たち

社会が大きく変わろうとしている中、従来通りの働き方を続けることに対して、疑問をもつ人が増えている。「大学を出た直後に一流企業に就職し、一生転職をせず、辞令に従って一つの企業で定年まで働く」という定番の成功コースを、敢えて選ばない若者も目立ち始めている。

大企業を辞めた若者が手に入れたいと考えているものは、必ずしも大企業で得られるものではなく、むしろ大企業を辞めることによって得られるものだ。例えば、「勤務時間や服装に求められる、日常的な規律からの自由」「くだらない形式的な仕事に人生の時間を奪われない自由」などだ。

若い人が大企業を辞めるもうひとつの理由は、彼らが今の大企業にいる40代、50代の人たちに、失望し始めているからだろう。入社3年目くらいまでは上司や先輩から学べることはたくさんあるが、しかしその後は時代遅れの上司や先輩に失望させられることが多くなっている。新入社員より英語が不得意な部長や課長。不可解なほど意思決定が遅く、中身より形式や権威を重視するなど、意味不明な慣行がまかり通る組織。時代が変わっているのに、枠にはまった考え方しかできず、何でも否定から入る癖がついてしまっている40~50代も少なくない。

大企業を辞める若者たちも、社会の変化を敏感に感じ取り、これまでとは違う選択を始めているのだろう。

 

「働くこと」の意味が変わる

大企業を辞めること以外にも、さまざまな働き方をする若者が増えている。自ら進んで海外で働こうとする若者。生きることにかかる費用を最小化することにより、人生においては働かなければならない時間も、最小化しようという若者。

団塊世代や高度成長を経験した世代は、企業で働くことで大きく報われてきた。しかし、1970年生まれの就職氷河期世代にとっては、どんなに頑張っても売上が上がらず、リストラやコスト削減ばかりが行われ、仕事から人生の意義を感じ取ることが容易ではなくなってしまった。これからの仕事、そして「働くこと」とは、「人生におけるすべての欲求を満たしてくれる土台となるもの」ではなく、「人生にとって重要なもののひとつ」という位置づけに代わっていくだろう。「仕事=人生の土台」などという世界観を、全員が共有できる時代は既に終わってしまったのだ。

 

40代で働き方を選びなおす

ここまでは現在起こっている「変化」が近い将来にどういった影響を与えるか、について述べてきた。本書の後半部分からは、「先行きが明るくないなかで、どういった生き方をすれば良いのか」という疑問への、著者からの提案が記されている。

その提案とは、最初から「職業人生は二回ある」という発想をしてみてはどうか、ということだ。従来の働き方は20代で就職した後、定年まで働き、その後は寿命まで余生を楽しむというものだった。しかし今後は、職業生活をふたつに分け、職業も二回選び、前半と後半で異なる働き方をする、と考えるのである。

最初の人生は、パッケージ旅行と同様、就活する、フルタイムで働き始める、結婚する、子どもをもつ、家を買う、といった定番ライフイベントをコンパクトに組み合わされた「だいたいこんな感じ」のパッケージライフ。二回目は自由設計の個人旅行のように、「自分で創るオリジナルの働き方」として、自分の興味関心や好みに合わせた生き方をすればよい。

 

ちきりんの選択

ちきりん自身、40代に働き方を大きく変えている。大学を出た後、日本の証券会社と米系企業に20数年間勤務し、やりがいを感じる一方で犠牲にするものも多かった著者は、40代後半になってその会社を退職することを決意した。現在のように本の出版やブロガーとしての収入で生きていけることが確定していたから辞めたのではなく、最低限の生活費ならパートでも稼げるだろうというくらいの気持ちで、後半人生をスタートしたという。

学生のときは、社会にはどんな仕事があるのかも分からないままに就職活動を行うが、40代になれば「自分のやりたいことや適性がリアルに理解できる」「現在の延長線上にある生活が、ほぼ予測できる」など有利な点があり、“本気の”ワークライフバランスを実現するべく、第二の就職活動を行えるからだ。

本書には、①40代でいったん仕事を辞め、何年か自分のやりたいことを思い切りやってから仕事を再開する「休憩型」、②40代で仕事を辞めたあと、モーレツに働く時期と、少しだけ働く時期や完全オフの期間をとり混ぜる「後半間欠泉型」、③40代以降は働く時間を減らす「プチ引退型」、④40代で仕事を辞め、若い頃の夢にチャレンジしたり、「あるべき業界の姿」実現のために起業する「独立フリーランス型」、⑤前半は専業主婦(主夫)として家事・育児などに専念し、後半は仕事に専念する「専業主婦(主夫)→ビジネス型」が紹介されている。

 

まとめ

これまでの社会では、できるだけ多くのストック、すなわち資産をもつことが有利とされていました。資産とは貯金のことでもあり、家族や同級生などの人脈や、過去において手に入れ「ストックしてあるモノ」。けれど今後、人生100年の時代になれば、ストックが多いことより、その時々になんらかの価値を生み出し続ける「フローの力」の方が重要である。