【書評】子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門

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子どもの自立を願う親御さんは多いと思います。子供のことを思うが故に、マイペースな子供に対して、ついイライラして口出ししてしまったり、叱ってしまったり。親が先回りして子供のやるべきことを指示してしまったり、我慢できない親御さんは多いはずです。子供の接し方に悩んでいる方にも本書をおすすめしたい本です

 

要点

  •  子育ての究極目標は、子どもの自立である。親は子どもの自立を促す「コーチ」としての役割に徹するとよい。
  • 子どもが自己肯定感を育むためには、子どもがありのままでいられる「安全基地」の存在が重要となる。他人との比較はせず、その子自身の成長をほめるのが望ましい。
  • 大人が子どもの人生の責任を負いすぎる必要はない。「自分は自分、子どもは子ども」という姿勢を貫くことが、子どもの自立を促すことになる。

 

子供の自立に必要なものとは?

本書は次の問いから始まる。親は子どもに対し、どんな道を進んだとしても、幸せに暮らしていてほしいと願わずにはいられない。だが、そのために親がすべきこととは何なのか。学歴、プログラミング、それともコミュニケーションスキルだろうか。たしかに、これらは子どもの可能性を広げてくれる。しかし、子どもの幸せを保証してくれるものではない。

現代は、「やりたいことがない」という子どもが増加している。放課後NPOアフタースクールの代表理事として5万人の子どもを見守ってきた著者によると、失敗を恐れる子どもたちは、「自己肯定感」が不足しているという。本書では、この自己肯定感をキーワードに、親がどのように子どもに関わっていくとよいかをわかりやすく解説している。

子どもはいつか親元を離れ、自分で道を切り開かなければならない。来るべき日に向けて、親が今すべきことは何か。それは、子どもの失敗につながるような、あらゆる障害を取り除くことではない。子育ての目的は自立であり、自己肯定感を育むことは、子どもの自立を促す。それは、親御さんの子育てへのイライラを軽減することにもつながる。それが著者の一貫した主張だ。

 

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チャレンジしない子供たち

子どもは好奇心旺盛なもの。そんな著者の思い込みに反して、「子どもがチャレンジをしない」という悩みを持つ親は少なくないという。親は子どもに新しいことにチャレンジしてほしいと願っている。その一方で、当の子どもはチャレンジせず、そもそも自分のやりたいことがわからない、どうでもいいという状態にある。こうした状況の根源には、子どもたちの自己肯定感の低さがあると著者はいう。

自己肯定感とは、「自分はここにいていい」という感覚のことである。自己肯定感を充分に持てない子どもは、失敗を恐れ、新しいことに取り組もうとしない。

子育てや教育の目標は、子どもの「自立」である。子どもが自立し、成長し続けるには、大人たちが子どもの自己肯定感を支えることが重要なのである。

 

成果ではなくプロセスを認める

子どもの自己肯定感を育むうえで留意したいのが、「ほめる」という行為だ。子どもがテストでいい点を取ったり、サッカーの試合で勝ったりしたとする。そのとき多くの親は、子どもの能力や成果に注目しがちだ。

しかし、親が成果や結果だけを評価してしまうと、子どものなかにこうした感情が芽生えていく。「価値があるのは自分ではなく、あくまで〇〇ができる自分であり、ただの自分には価値がない」。こうした価値観は無意識に刷り込まれ、漠然とした不安や焦りとなって、子どもの心にすみついてしまう。

子どもの自己肯定感を支えるのは、無条件に自分の存在を受け入れてくれる「安全基地」の存在である。親には、成果に関してはどんな結果であっても受け入れる一方で、挑戦したプロセスを認めることが求められる。たとえば、子どものテストの結果が良かったとしよう。その際は、点数だけに着目するのはNGだ。「週末によく勉強していたからだね、頑張ったね」などと、プロセスに着目した声かけが望ましい。

 

他の子供と比べない

子どもとの関わりで避けたほうがいいのは、我が子を他の子どもと比べることだ。子どもは周囲と比べられると、自分の努力よりも、周囲の客観的な評価ばかり気にするようになる。何かを達成したときには、自分が成長している実感を得られる。にもかかわらず、比較によって委縮してしまうのは、もったいない。

子どもを評価するときには、「以前のその子と比べる」のがよい。誕生日、年末などの節目で、子どもを一年前と比べてみると、その子のさまざまな成長に気づける。「だいぶ〇〇ができるようになったね!」という伝え方なら、うまく子どもをほめられるため、子どもを叱りがちな親御さんにおすすめである。

 

子供が挑戦を恐れるようになった理由は?

そもそも子どもがチャレンジしなくなった背景には、大人の失敗経験が減り、寛容さが減ったことがあるのではないか。そう著者は推察している。いまや、何をするにしても、その場で効率のいい方法や他者の評価を調べられる。そのため、失敗して恥をかいたり、周囲に迷惑をかけたりする機会が少なくなっている。親も子どもに失敗をさせて恥をかきたくないため、先回りして手を打つことが増えた。その結果、子どもが挑戦を恐れるようになったと考えられる。

大事なのは、親が失敗を悪いものと思いすぎないことだ。むしろ、大人側が、失敗から学んだ経験をもっと話すほうがよい。そうすれば、子どもは大人でも失敗することを学ぶ。そして、親子や先生と生徒の関係を離れて、一人の人間として大人と向き合えるようになる。このように、弱みを見せ、失敗を笑いあうことは、親子や先生と生徒の距離を縮めるうえでも効果的である。

 

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親のイライラをなくす方法

親が先回りをして、子どもにやるべきことを指示していく。こうした環境下では、子どもは受け身になり、自立心や自分の意志を持つことが難しい。親は常に保護者モードでいようとするため、子どものスローペースな行動にイライラしてしまう。

そこで著者は、いったん親の視点から離れ、選手を冷静に見守り励ますような「コーチ」の目線を持つことをすすめている。こうすると、子どもが失敗しても、親がイライラすることが減る。子どもたちのペースも成長の速さも様々だが、速度が遅いからといって、もどかしく思う必要はない。コーチ目線を取り入れる目的は、「子どもが自分でできることを増やすこと」だからだ。子どもができる範囲で「自分でやる」経験を積むことにより、自立心が高まっていく。

 

必要とされている実感を子供に与える

平成25年度に、「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」が行われた。その調査では、日本人は諸外国に比べ、「自分は役に立つ」「まわりを信じられる」といった、他者との関係で自尊感情が決まる傾向が強いという特徴が明らかになった。

ここでのキーワードは、役割である。役割を通して、子どもは自分が必要とされている実感を得られる。子どもを大きく成長させるきっかけは、「まわりに認められた」という経験なのだ。

「自分が関わって何かが良くなると嬉しい」。この感覚を子どもに味わってもらう方法に、「お手伝い」がある。「手伝ってくれて、ありがとう」というメッセージは、子どもが実際にしてくれたことへの感謝である。より深く、子どもの心に響くにちがいない。

 

子供を信頼する

日本では、親が子どものことを自分ごとと捉えすぎている場合が多い。結果として、親が子どもの判断に介入しすぎるのは問題だ。子どもは自分の選択や行動に責任を持たないまま、大人になってしまう。

子どもの自立を後押しするという意味では、「親は親、子は子」のスタンスが望ましい。親が一生子どもを守り続けることは難しい。子どもの人生を決められるのは、その子自身なのだから。

 

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外側のモノサシに頼らず「その子自身」を見る

子どもの自己肯定感を高めるには、安全基地が必要だ。安全基地をつくるうえで大事なのは、「その子自身を見る」という親の姿勢である。

その子の個性や特徴を把握する際、世の中の基準による安易な価値判断をしないようにしたい。子どもの好きなことや得意なことを見守るべきだ。

また、「自分がここにいていい」という感覚は、「いてくれてありがとう」というメッセージを繰り返し受けとるなかで得られる、身体的感覚である。たとえば、子どもが生まれた日や、小さかった頃の話などを通じて、親子としてのスタート地点を子どもに語るとよいだろう。これにより、子どもは親から愛されている感覚を得られる。

小学生になると、親子で過ごす時間は減り、親から叱られることが増える。そのため、子どもは自分が愛されているか不安を覚えやすい。こうした時期こそ、過去のエピソードを話すことで、「子どもが大事な存在である」というメッセージを伝えたいものである。

 

短所と長所を選別しない

日本の教育には、「弱いところを改める」という短所矯正型の考えがある。しかし、そもそも、長所だけ、短所だけという子どもはいない。短所はその子の個性であり、長所の裏返しでもある。子どもの個性を長所と短所に選別するのではなく、違いがあるだけだと捉え直してみよう。すると、凹凸のあるパズルのピースのように、その個性が誰かの役に立つときがくる。

その日のために親にできることは、子どものコミュニケーションの範囲を広げておくことだ。地域の活動や異なる文化にふれられるコミュニティなどで、子どもが多様な価値観を持った人と関われるようにサポートしたい。

 

生活体験と勉強を結びつける

学校の勉強でのつまずきが、子どもの自己肯定感を下げるケースは多い。毎日の授業がわからないと学習意欲は下がる一方だ。また、テストの点数は他の子との差を見えやすくする。「どうせ自分にはわからない」と思って授業を聞くと、ますますわからなくなる。そんな負のサイクルに陥ってしまう。

これを防ぐのに役立つのが、生活体験と勉強を結びつけることである。特に子どものうちは、「算数嫌い」にならないことが重要である。基本的な算数力のなさは将来的にも尾を引く。

著者がすすめるのは、リアルなお金にふれる「買い物」という機会に、子どもが支払いをすることである。算数嫌いの予防と克服に有効だからだ。数を具体的にイメージできるようになれば、算数への興味も高まるだろう。

 

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やりたいことが分からない子供たち

著者は、全国の小学生1000人に「放課後や夏休みにやってみたいこと」についてアンケート調査を行った。1位はサッカー、2位はドッジボール、3位は鬼ごっこ。5位は「なし」という結果になった。

やりたいことがない、わからない、どうでもいい。このような状態の子どもが一定数いる。その背景には、保護者が一週間の子どもの居場所を決めていることが挙げられる。子どもたちだけで遊んだり、遊びを考えたりする機会が減ってしまったのだ。「子どもの自主性」を育むためにも、やりたいことがわからないという声には危機感を持ったほうがよい。

一方で、このアンケートでは、四人に一人の子どもが「友だちと」「みんなで」何かをしたいと答えている。「何をするかより、誰とするか」が重要だと考えるのは、大人も子どもも共通していることがわかる。保護者や保育者は、友だちと思い切り過ごせるように子どもたちを応援するようにしたい。

 

 

まとめ

親にとっての子育てのコツ。それは、「子どもの自立を促し、できるだけ見守る」という、意外とシンプルな姿勢かもしれない。大人も完璧である必要はない、弱いところを見せてもいいし、失敗をどんどん語ろう。いま、何らかの形で子どもと関わる方は、本書をもとに、子どもとの向き合い方を改めて考えてみてはどうでしょう。