【書評】マインドセット 「やればできる! 」の研究

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凡人には成し得ないようなすばらしい成果をあげている人を見ると、生まれつきの才能はあるものだと私達は思いがちです。しかし才能に恵まれている人がいつも成果をあげているかというと、かならずしもそうではありません。生来の才能があっても正しいマインドがないために、その才能を生かせずに終わってしまう人も多いのです。その反対に、一見すると才能には恵まれていないように思える人が、コツコツと努力して、才能がある人間よりも大きな成果を生むこともあります。

スタンフォード大学心理学教授は、人は変われるという信念のもと、「しなやかマインドセット」の重要性を説いています。人は変わらないし能力は生まれつき固定されていると考える「硬直マインドセット」の人は、生まれつきの優秀さを証明することに躍起になり、一度の失敗で挫折を感じてしまいます。それに対して、しなやかマインドセットをもっている人は、能力は常に伸ばしていけると考えています。

 

要点

  1. マインドセットには、人間の能力は生まれつき固定されたものだと考える「硬直マインドセット」と、人間は成長しつづけられると考える「しなやかマインドセット」の2種類がある。
  2. マインドセットはその人自身や周囲、組織、人間関係から、ビジネスやスポーツなどの分野にいたるまで、あらゆる局面に影響力を与える。
  3. マインドセットがしなやかになると、何事にも臆さなくなり、自分の才能を最大限に生かせるようになる。

 

 

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マインドセットには2種類ある

 人は一人ひとり違うし、それぞれの個性がある。それは自明のことだ。だが頭の良し悪しには、どの程度の違いがあるだろうか。研究者たちの立場は大きく分けて2つある。知能はあらかじめ規定されていて変更が効かないという説と、訓練によって知能は伸ばせるという説である。こうした学問上の論争はさておき、どちらの説を信じるかによって、その人の人生は大きく変わってくるだろう。著者は人間のマインドセットについて、「硬直マインドセット= fixed mindset」と「しなやかマインドセット= growth mindset」の2種類があると考えている。

人間の資質は変わらないと考えている「硬直マインドセット」の人は、最初に配られた手札だけで戦っているようなものだ。そのため失敗を受け入れられなかったり、自分を必要以上に大きく見せたいという気持ちが生まれたりする。

その一方で、人間は成長しつづけられると信じる「しなやかマインドセット」の人は、失敗も成長に必要なこととして受け入れ、自分の現状についても正しく受け止められることが多い。「硬直マインドセット」は他人からの評価に、「しなやかマインドセット」の人は自分を向上させることに興味をもっているといえよう。

 

しなやかマインドセットで、自分を賢く育てる

どちらのマインドセットを選ぶかによって、人生は大きく変わる。能力を固定的にとらえると、一回の結果ですべてが決まってしまうと考えがちになる。そういうマインドセットをもつ人にとって、成功とは自分の賢さを示すことであり、優先すべきは他人に優秀だと評されることだ。すると困難な問題からは目を背け、短期的に解決可能な課題だけに取り組む傾向が強くなる。さらには才能さえあれば努力など必要ないと考え、自分の能力を完全に発揮できなくなることも珍しくない。

しかし能力を流動的なものだと捉え、努力こそが人を賢くすると考える人にとって、失敗は自分を成長させる糧となる。人はみな生まれた時点では、学ぶことが大好きだ。失敗を恐れないし、恥ずかしがったりもしない。ところが成長にともない硬直マインドセットが植えつけられると、たちまち失敗しないことにしか取り組みたくなくなる。そして成長が止まってしまう。

失敗を恐れずに果敢に挑戦し、欠点があれば直そうと試みる。そんなしなやかマインドセットがあれば、たとえ自信などなくても尻込みせず、気楽な気持ちで物事に挑戦できるようになる。

 

 

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しなやかマインドセットがもたらす影響

並外れた天才たちの業績は神話化されやすく、一人で突然輝かしい栄光を手にしたと考えられがちだ。しかし現実はかならずしもそうではない。

たとえばトーマス・エジソンはごく普通の少年であったが、次々に新しいものを生み出そうとする少年の心と情熱をいつまでも忘れなかった。そのマインドセットこそが、彼を天才たらしめたのだ。彼の代表的な発明である白熱電球は、さまざまな人々が集まり、多数の発明が組み合わさってできあがったものだった。しかも彼は自分の発明の価値を知りつくした起業家であり、マスコミに取り入ることもうまかった。けっして気難しいだけの変わり者ではなかったのである。

またチャールズ・ダーウィンも『種の起源』を書き上げるまでに、何年ものフィールドワークや何百もの議論を経ているし、モーツァルトも現在まで残る音楽をつくれるようになるまでの十数年は、凡庸な音楽しかつくれなかった。天才たちの輝かしい業績の背景には、多くの努力があることを忘れてはならない。

 

マインドセットは成績にも影響する

マインドセットは成績とも大いに関連している。困難を避けがちな硬直マインドセットの子供たちは、中学校に上がると成績が下がりがちになる。逆にしなやかマインドセットの子供たちの場合、大変な問題にも果敢に取り組み、成績の低下はあまり見られない。

 また大学生になると、硬直マインドセットの学生は意欲を失う傾向にある。それまで「優秀」で通ってきたぶん、大学に入ると周囲に埋れてしまったと感じるからだ。一方でしなやかマインドセットをもった学生たちは、新しいことを理解しようと試み、結果的に良い成績をおさめやすい。

 著名な教育心理学者であるベンジャミン・ブルームがずば抜けた実績をもつ120人について調査をしたところ、その大多数は幼少期には凡庸であり、本格的な訓練を受けるまで際立った才能は見られなかったそうだ。つまり周囲のサポートを受けながら、たゆみない努力を続けた結果、彼らは頂点に上りつめたというわけである。重度の障害を抱えていないのであれば、「学習できる環境があるかぎり、世界中のほとんどだれでも能力を伸ばすことが可能だ」とブルームは結論づけている。

 

 

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教育者のマインドセットも重要

教育者のマインドセットも、子供の成績に影響を与える。硬直マインドセットの教師の教室では、優秀な生徒は優秀なまま、成績が低い生徒は低いままであった。しかし、しなやかマインドセットの教師の教室では、どの生徒も成績を伸ばした。

しなやかマインドセットをもつように促すうえで、重要なのはほめ方だ。思春期の子供たちを2つのグループに分けて、違うほめ方をするという実験がおこなわれた。一方には「頭がいいのね」と能力をほめ、他方には「がんばったのね」と努力をほめたのだ。グループ分けをした時点では、両グループの成績はまったく同じだった。しかし能力をほめられたグループは硬直マインドセットの行動を示しはじめ、反対に努力をほめられたグループはしなやかマインドセットの行動をとるようになった。

 また生徒全員になかなか解けないような難問を出すと、能力をほめられたグループは「自分は頭が良くない」と感じたが、努力をほめられたグループは解けないことを失敗とは思わずに、さらにがんばらなければと考えた。その後、能力をほめられたグループは成績が落ちこみ、やさしい問題が出されても成績は回復しなかった。

 一方で努力をほめられたグループはどんどん出来がよくなり、ふたたびやさしい問題に取り組むと、すらすら解けるようになっていた。能力をほめると生徒の知能は下がり、努力をほめると生徒の知能は上がるのだ。

 

 

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スポーツは才能よりも練習や精神

さまざまな分野でマインドセットの重要性が注目されはじめている。素質が重要だと考えられているスポーツ分野であっても同様だ。才能はあるが努力できない硬直マインドセットであったために、結果が出ない選手もいる一方で、肉体的にはけっして恵まれているわけではないのに、練習や努力によって才能を伸ばしていく選手もいる。わたしたちは後者から、多くを学べるのではないか。

 あのマイケル・ジョーダンでさえ、高校のときにはチームに選ばれず、第一志望の大学へは行けなかった。そんなときジョーダンの母は息子に「練習して鍛えなおしなさい」と言い聞かせたという。ジョーダンは積極的に厳しい練習に励み、成功を収めた後でも練習を怠らなかった。まさにしなやかマインドセットの持ち主だといえる。わたしたちはついスポーツで成功している人を見ると、それは天賦の才があったからだと考えてしまいがちだ。だがむしろ重要なのは、その努力や練習の過程に注目することなのである。

 

優秀なリーダーの条件

ビジネスの世界でも、企業を超優良企業へと導く指導者は、やはりしなやかマインドセットの持ち主である。『ビジョナリー・カンパニー』の著者ジム・コリンズの調査によれば、長期に渡って好調を維持している企業の指導者は、謙虚で控えめであり、絶えず答えを模索し、たとえそれが厳しい答えであっても直視できる人たちだったという。

 硬直マインドセットの指導者たちは、仕事を愛する気持ちを忘れ、自分の優秀さの証明を優先してしまいがちだ。しかもたとえ会社を破綻に導いてしまったとしても、自分だけは無傷で生き残れると思っている節さえある。

 だが優れたリーダーは建設的な意見に耳を傾け、チームワークを重んじるものだ。彼らは部下へ適切なサポートをし、成長を促すフィードバックを与える環境づくりに力を注いでいる。

 

 

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人間関係もマインドセットで変わる

マインドセットの違いによって、人間関係も大きく変わってくる。硬直マインドセットの人は、他人から拒絶されると自分の価値自体が否定されたように感じ、恨みや復讐心を抱く傾向にある。逆にしなやかマインドセットの人は、相手を許そうとし、前向きな対処をすることが多い。

 硬直マインドセットの人の根底にあるのは、「人は変わらない」という確信であり、人間関係は相性がすべてで、理解しあうのに努力は必要ないと思っている。だがしなやかマインドセットの人は相手と話し合い、理解と親密さを高めつづけていくべきだと考えている。なぜなら人は変わるものだからだ。良好な人間関係を築くうえでも、しなやかマインドセットは必要だといえる。

 

 

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一流の子育てとは

親や教育者にとっても、しなやかマインドセットは重要である。教育心理学者のベンジャミン・ブルームが120名にのぼる世界的なピアニスト、彫刻家、水泳選手、テニス選手、数学者、神経学者を調査したところ、彼らの最初の指導者はほとんどの場合、驚くほど温かくて度量が大きかった。難しい課題を与え、惜しみない愛情を注ぐ。もしできない生徒がいても、諦めたりごまかしたりするのではなく、その事実を子供にはっきりと告げて、向上するための積極的な計画を立てる。そうすることが、その子をいい方向へ導くとわかっているのだ。

すぐれた教師は皆、才能や知能はかならず伸びるものだと信じている。親や教師はつい子供の才能をほめたり、結果を評価したりしがちだが、それは間違えている。子供のしなやかマインドセットを育てたいのであれば、「あなたはこれからどんどん伸びていく人間。私はその成長ぶりに関心があるのだ」というメッセージを送りつづけるべきである。

しなやかマインドセットの根底にあるのは「人は変われる」という信念だ。それはかならずしも容易ではないし、それだけで問題がすべて解決するわけでもない。しかしマインドセットの変化は、人生の質を確実に変える。豊かな人生を送れるかどうかは、マインドセット次第だといえよう。

 

まとめ

本書では硬直マインドセットの短所としなやかマインドセットの長所が、豊富な実例や科学的論拠を交えて解説されている。自分自身をもっと高めたい人、部下のやる気を引き出したい人、子供や生徒の手助けをしたい人に、強くおすすめしたい一冊だ。本書ではマインドセットをしなやかにするためのプロセスが詳細に解説されている。具体例も豊富に掲載されているので、さらに理解を深めたい方はぜひご熟読をおすすめします。